「外国人材の受け入れは治安に悪影響か?」——公的統計と犯罪学の知見で考える

【この記事を書いた理由】私は入管業務を専門にする行政書士です。行政書士の仕事は手続きの代行であり、政策の方向性を決める立場にはありません。それでも、外国人材を受け入れる企業をお手伝いする以上、その仕事が地域の治安にどう関わるのかは、きちんと確かめておきたいと考えました。この記事は、政策の是非を論じるものではなく、公的統計をもとに、判断の材料を整理したものです。
本記事の位置づけ:本記事は「外国人材の受け入れは治安を悪化させるか」という一つの論点について、公的統計に基づいて検証したものです。外国人労働者本人の処遇・労働環境、技能実習制度をめぐる課題など、本記事で扱っていない論点も存在します。犯罪学における環境要因説についても、これを唯一の定説として提示するものではなく、有力な知見の一つとしてご理解ください。統計は各章に記載の時点のものであり、更新される可能性があります。
1. ニュースの「体感治安」と統計が示す「客観的事実」のギャップ
テレビやネットニュースを見ていると「外国人犯罪が多発している」と感じがちです。しかし、犯罪社会学でも指摘される通り、ここには「報道による印象(体感治安)の増幅」と「客観統計」の乖離が存在します。
属性が強調される報道バイアス
日本人が起こした事件では名前や年齢のみが報じられる一方、外国人が関与した事件では「ベトナム国籍の男」「外国籍グループ」といった国籍や属性が見出しで強調され、SNSでも拡散されやすい傾向があります。これにより、個別の事件が強く記憶に残り、社会全体で多発しているような錯覚を生み出します。
外国人による刑法犯検挙件数はピーク時から大幅に減少
警察庁の統計・法務省「犯罪白書」によると、外国人(特別永住者を含む全体)による刑法犯の検挙件数は平成17年(2005年)の4万3,622件をピークに翌年から減少に転じ、令和4年(2022年)には1万2,947件まで落ち込みました。ピーク時と比べれば依然として大幅に低い水準です。
ただし、直近では潮目が変わっています。令和5年・6年(2023・2024年)は2年連続で増加しており、令和6年は1万8,861件(前年比21.4%増)となりました。なお、より狭い「来日外国人」(特別永住者等を除く)に限定した場合のピークは同じ平成17年で3万3,037件、令和6年は1万3,405件(同33.5%増)です。ピーク比では依然半分以下の水準にありますが、近年増加傾向にあることも、事実としてお伝えしておきます。

在留外国人が過去最多を更新し続ける中、検挙人員に占める外国人の比率は5%台
出入国在留管理庁の統計では、在留外国人数は2025年末時点で412万人を超え、4年連続で過去最多を更新しています。一方、令和6年の刑法犯検挙人員総数(191,826人)のうち、外国人(特別永住者を含む)は10,464人で、5.5%でした。「来日外国人」に限ると6,368人で、約3.3%です。検挙人員の9割以上は外国人以外が占めています。

2. 「20代同士」の比較と日本の若者人口急減
「外国人は犯罪が多い」という言説には、母集団の年齢構成の違いが影響しています。
年齢犯罪曲線(若年層ほど活動的)
犯罪発生率は国籍を問わず「10代後半〜20代が最も高く、高齢になるほど減少する」という構造があります。超高齢社会の日本は全人口の年齢構成が高齢層に大きく偏っており、犯罪率が極めて低い高齢層が全体の平均値を押し下げています。対して、日本で働く外国人材の多くは20代〜30代です。
「20代の日本人」と「20代の外国人」の比較
年齢構成をそろえて比べると、外国人と日本人の検挙率の差は大きく縮まるとされています。国立社会保障・人口問題研究所の是川夕氏の分析(2025年)では、日本人の年齢別の犯罪率を外国人の年齢構成に当てはめた場合、実際の検挙人員は推定の約1.3倍でした。差は残りますが、年齢構成を考えずに全体を比べた印象よりは、かなり小さくなります。年齢構成をそろえずに全体比較することが、印象を歪める一因になり得るという点は留意すべきです。

日本の若年人口は長期的に急減している
総務省の人口推計によれば、少子化により日本の20代人口は2000年代半ば以降、長期にわたり数百万人規模で減少を続けています。全国で働く20代前後の外国人材(特定技能・技能実習生など数十万人規模)が加わっても、日本社会全体の若年人口総数を押し上げる規模には至っておらず、少なくともこの人口動態だけをもって「犯罪総数の増加要因」と結びつけることはできません。
3. 犯罪学の知見:犯罪発生率は「国籍」ではなく「環境」に強く左右される
犯罪学で長年指摘されてきたのは、「犯罪の発生は、国籍や個人の資質そのものよりも、その人が置かれた社会的・経済的環境(失業・貧困・孤立)に強く影響される」という点です。
国連薬物犯罪事務所(UNODC)の国際殺人統計(人口10万人あたりの殺人発生率)を見ると、国ごとに大きな差があります。
- 日本:人口10万人あたり約0.2〜0.3件(G7中最低水準)
- 世界平均:近年の推計でおおむね5〜7件程度(年により変動)
- 主要国の例:米国 約5〜6件(UNODC/世界銀行データ)

母国の重大犯罪発生率が日本より高い国であっても、来日した外国人材が日本国内で治安を乱す事例が突出して多いわけではないのは、以下のような「環境要因」が影響している可能性があります(特定の研究に基づくものではなく、筆者の見方です)。
- 入国前の厳格な選別(スクリーニング):送り出し機関や出入国在留管理局による身元・経歴審査を通過した人物のみが入国している。
- 強力な制度的抑止力:法令違反を起こせば在留資格を失い強制送還となり得るため、強い自制心が働きやすい。
- 定職・住居インフラの確保:来日当初から仕事と住居があり、孤立や生活困窮から突発的な問題行動に追い込まれにくい環境が構造的に整っている。
4. 欧米の明暗から学ぶ「生活基盤」の確立——義務的支援は「親切心」ではなく「合理的インフラ」
外国人比率が同水準であっても、社会が安定する国と摩擦を抱える国に分かれます。その違いの一つとして指摘されるのが「生活基盤(教育・住居・生活支援)を整える仕組みが機能しているか」です。
欧米の歴史的な教訓
スイスの作家マックス・フリッシュの「我々は労働力を呼んだが、やってきたのは人間だった(Man rief Arbeitskräfte, und es kamen Menschen)」という言葉は、「労働力(手)だけを求め、生活基盤の整備を後回しにした」歴史への反省としてしばしば引用されます。欧州の一部の国では、言語教育や地域定着支援が不十分だったことが、後年の社会的な分断や摩擦の一因として指摘されることがあります。
成功例とされる国の共通点
一方、外国人比率が比較的高い水準でも治安が安定している国の例として、以下のような制度が紹介されることがあります。
- シンガポール:住宅政策における民族構成への配慮(Ethnic Integration Policy)
- カナダ:新規移民向けの公的な言語教育プログラム(LINC等)
※これらの制度の詳細な運用実態・予算規模は、各国の公的資料でご確認ください。
日本の特定技能制度における義務的支援
日本の特定技能制度では、特定技能1号の外国人を受け入れる企業に対して、住居確保の支援、生活オリエンテーション、日本語学習の機会の提供、定期面談といった支援(10項目)の実施が、入管法と関係省令で義務付けられています(登録支援機関に委託することもできます)。これは単なる配慮ではなく、近隣トラブルや孤立を未然に防ぐための制度的な仕組みとして機能していると位置づけられます。特定技能の受け入れ手続きの全体像は、特定技能の受け入れ手続き:海外から呼び寄せる場合の流れで整理しています。
5. 特定技能2号と「次の世代」——子どもの日本語教育は「福祉」ではなく「将来の治安への投資」
前章の義務的支援は、特定技能1号の外国人が対象です。熟練した技能を持つ特定技能2号に進むと、こうした支援の義務はなくなる一方で、家族を日本に呼ぶことができるようになります。受け入れの課題は、「働く本人」から「その子ども」へと広がっていきます。
2号では家族の帯同が認められる
出入国在留管理庁の運用要領は、「「特定技能2号」では、家族の帯同(在留資格「家族滞在」)が認められますが、「特定技能1号」では、家族の帯同は認められません」としています。対象分野の拡大とともに2号に進む人が増えれば、日本で育ち、日本の学校で学ぶ子どもも増えていきます。2号を見据えた人材計画については、特定技能は「5年で終わり」ではないでも触れています。
欧州の教訓は「2世」にも及ぶ
前章で触れたように、欧州の一部の国では、働きに来た親の世代だけを想定し、その子ども(移民2世)の言語習得や進学・就職への支援が追いつかなかったことが、後年の社会的な分断の一因として指摘されています。第3章で見たとおり、犯罪は「国籍」よりも失業・貧困・孤立といった「環境」に左右されます。言葉が身につかず、学校や仕事につながれない子どもが増えれば、その「環境」を社会の側がつくってしまうことになります。
学校現場の支援はすでに追いついていない
日本語の指導が必要な子どもが増え、学校現場の負担は大きくなっています。文部科学省の調査(令和6年5月1日時点)では、学校に通っていない(不就学)外国籍の子どもが1,097人、就学状況を確認できなかった子どもが7,322人いました。不就学の可能性がある子どもは合計で約8,400人とされますが、確認できなかった子どもには、私立学校や外国人学校に通う子どもが含まれている可能性があります。日本語指導への支援事業も、令和8年度は予算額を大きく上回る申請があったとされています。なお、外国籍の子どもには日本の義務教育の就学義務はなく、保護者が希望すれば公立の小中学校に受け入れられる仕組みです。情報が届かなければ、学校につながらないまま育つ子どもが出てしまいます。

値上げされた在留手数料は、どこに使われるべきか
令和8年10月から、在留資格の変更・更新の手数料が大幅に引き上げられました。政府は、外国人の出入国・在留の公正な管理にかかる費用を、その利益を受ける外国人に分担してもらうと説明しています。国会では、増えた手数料収入を子どもの日本語教育や学校の受入れ体制にも充てるべきだという意見が、複数の議員から出ました。ただし、手数料収入は国の一般の収入に入り、法律で使い道は決められていません。政府も、子どもの教育に充てるとは答えていません。手数料の考え方は、在留手数料はなぜ上がったのかで解説しています。
手数料収入の使い道を決めるのは国会と政府であり、行政書士の私が論じる立場にはありません。ただ、国会では、増えた手数料収入を子どもの日本語教育に充てるべきだという意見が出ています。子どもが日本語を身につけ、地域の一員として育つことは、外国人本人のためだけでなく、将来の分断を防ぎ、地域の安全と安心を保つ土台になる、という見方があります。
結論:統計を正しく読み、適法な受入体制で臨む
- 客観的事実:外国人による刑法犯検挙件数はピーク時(平成17年)から大幅に減少しているが、直近2年は増加傾向にある。検挙人員全体に占める外国人の比率は令和6年で5.5%(来日外国人に限ると約3.3%)。
- 年齢構成の影響に注意:全体比較ではなく、年齢構成をそろえた比較で見る視点が重要。差は縮まるが、なお外国人がやや高い。
- 犯罪の抑止要因:定職・住居の確保、在留資格維持のインセンティブが行動を規律する方向に働きやすい。
- 治安の防壁:特定技能1号の義務的支援(生活指導・定期面談)がトラブルを未然に防ぐ制度として機能している。
- 次の課題:2号で家族を呼べるようになる今後は、子どもの日本語教育と就学支援が、将来の分断を防ぐ鍵になる。
客観的な統計を見れば、「外国人が増えると治安が直線的に悪化する」という単純な図式は、現時点のデータでは裏付けられていません。同時に、直近の増加傾向のように統計は変化するものであり、一時点の数字だけで断定せず、継続的に公的データを確認する姿勢も重要です。適法に受け入れ、適切な生活支援を行い、さらに次の世代を迎える準備をしておくことが、企業の現場と地域社会の双方にとって現実的な道筋と言えます。
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主な参照資料(確認時点を明記)
- 警察庁「犯罪統計」/法務省「犯罪白書」(令和6年版・令和7年版):外国人・来日外国人の検挙件数(〜2024年分)
- 出入国在留管理庁「在留外国人数」:2025年末時点(412万人超)
- 是川夕「外国人が増加すると治安が悪化するのか? 犯罪統計による検証」日立財団グローバル ソサイエティ レビュー第4号(2025年6月):年齢構成をそろえた検挙率の比較
- 国連薬物犯罪事務所(UNODC)Global Study on Homicide:直近公表分(国により対象年が異なる)
- 総務省統計局「人口推計」:20代人口の長期推移(本記事では概数として言及)
- 出入国在留管理庁「特定技能外国人受け入れに関する運用要領」:特定技能2号の家族帯同
- 国会会議録(令和8年4月17日 衆議院法務委員会、5月19日 参議院法務委員会、5月25日 参議院行政監視委員会):外国人の子どもの日本語教育、在留手数料の使い道
- 文部科学省「外国人の子供の就学状況等調査」(令和6年度、令和6年5月1日時点):不就学1,097人、就学状況不明7,322人
- 出入国在留管理庁「在留手数料の改定について」:令和8年10月1日施行
本記事は2026年8月時点で確認できた公表資料に基づき作成し、2026年10月に第5章を加筆しました。犯罪統計・在留外国人数は年1回程度更新されるため、重要な意思決定に用いる際は必ず最新の一次資料をご確認ください。
更新履歴
2026年10月24日:冒頭に執筆の理由を追記し、第5章の表現と一部の注記を整理し、第2章の年齢をそろえた比較の記述を、出典のある内容に改めました。
記事の著者:行政書士 多田曜識
多田曜識行政書士事務所(東京都足立区) https://tadaakinori.com/