「外国人に日本人の仕事が奪われる・給料が下がる」は本当か?

「外国人に日本人の仕事が奪われる・給料が下がる」は本当か?

【この記事を書いた理由】私は行政書士になる前、飲食店の店長をしていました。人手不足の現場の大変さは、身をもって知っています。一方で、外国人材の採用には、「日本人の仕事を奪うのではないか」「賃金が下がるのではないか」という不安の声もあります。私は行政書士として手続きをお手伝いする立場で、政策を論じる立場にはありません。ただ、この不安に制度と研究がどう答えているのかは確かめておきたいと考え、まとめました。

本記事の位置づけ:本記事は「特定技能制度による外国人材の受け入れが、日本人労働者の賃金・雇用を脅かすか」という論点を、制度設計と現時点の実証研究をもとに検証したものです。この分野は経済学者の間でも見解が分かれる係争中の論点が含まれるため、断定を避け、研究の到達点を幅を持たせて紹介しています。技能実習制度における労働環境の課題など、外国人労働者本人の処遇に関する論点は本記事の範囲外です。

1. なぜ海外の一部地域で「賃金の下押し」が指摘されたのか?

労働経済学の研究では、海外の一部の国・地域で自国民の雇用・賃金への影響が確認された事例が報告されています。

  • アメリカ:ハーバード大学のジョージ・ボージャス教授の2003年の分析では、移民の労働供給が10%増えると賃金が3〜4%下がるとされています。一方、デビッド・カード氏のマイアミの研究(1990年)は、キューバからの大量流入(マリエル事件)の後も、地元の労働者の賃金や失業率にはほとんど影響がなかったとしています。また、オッタヴィアーノ氏とペリ氏の研究(2012年)は、移民と自国民は完全には代替しないとして、移民が自国民の平均賃金を押し上げる一方、高校を出ていない層にはわずかなマイナスがあるとしています。移民の賃金効果は、経済学者の間でも見解が分かれる、係争中の論点です。
  • イギリス:2004年のEU東方拡大後、東欧からの労働者流入により、飲食・清掃など一部の半熟練サービス業で賃金上昇率の鈍化が報告された研究(イングランド銀行のワーキングペーパー等)があります。
  • 南欧:不法就労・地下経済における低賃金競争が、正規の季節労働者を圧迫したとする指摘があります。

これらは、国内に低技能の失業者が滞留する状況下で、無制限または不法な低賃金労働が流入したことが背景にあると考えられています。

2. 日本の特定技能制度が備える制度的な違い

比較項目海外で問題視されたケース日本の特定技能制度
受入時の賃金設定最低賃金水準、または地下経済の安値「日本人と同等以上の報酬」が法律上の要件
対象分野制限が乏しいケースもある人手不足が認定された特定分野に限定、受入上限あり

① 「日本人と同等以上の報酬」の義務付け

出入国管理法の基準省令により、特定技能外国人には「同等の業務を行う日本人と同等以上の給与を支払うこと」が義務付けられており、申請時には報酬比較の説明資料の提出が求められます。

② 対象分野の限定

受入が認められているのは、政府が人手不足と認定した特定産業分野に限られ、受入見込数の上限(キャップ)が設定されています。

③ 職種によって有効求人倍率が高い分野が多い

建設・介護・自動車整備などの分野は、他分野と比べて有効求人倍率が高い(=日本人の応募者が少ない)傾向がしばしば報告されています(具体的な倍率は時期・地域によって変動するため、最新の厚生労働省「一般職業紹介状況」でのご確認をおすすめします)。

3. 「日本人の賃金上昇を妨げている」のか——研究の到達点はより慎重

これまで、外国人労働者の増加が日本人の賃金・雇用に与える影響について、日本国内でも複数の実証研究が行われています。ただし、その結論を「影響はゼロと実証済み」と単純化するのは正確ではありません。

厚生労働省委託の調査研究事業報告書(平成31年)では、海外の実証分析を整理した結果として、「ロースキル層に係る実証分析結果からは、自国(受入れ国)出身者の賃金に対する影響は正、負それぞれの結果がみられる」とされており、結果は一様ではありません。一方で、自国出身者の就業率への影響については、有意な影響を及ぼしていないとも報告されています。

また、経済産業研究所(RIETI)で外国人労働者の労働市場への影響を研究しているエコノミストの分析では、「高技能外国人を雇用する事業所では日本人の賃金が高い一方、非高技能の外国人を雇用する事業所では日本人の賃金が低い」という相関関係が観察されたとする報告もあります(これは因果関係を示すものではなく、企業の生産技術選択との関連が背景にあると分析されています)。

日本の都道府県別データを使った分析(慶應義塾大学の笹原彰氏らの論文、2023年)では、外国人住民の増加が賃金に与える影響は、全体としてはほぼ確認されませんでした。1995〜2000年の一部の集団には負の効果が見られましたが、分析の条件を満たすものは少数で、金融業や製造業の40代などには正の効果も出ています。著者らは、日本では移民の割合が他の先進国より小さいこと、賃金が動きにくいこと、需要の増加による相殺などを、その理由に挙げています。

また、特定技能外国人を雇った製造業の事業所を調べた、経済産業研究所の橋本由紀氏の分析(2026年)では、外国人を雇う企業はもともと日本人の賃金や労働生産性が低い傾向がありました。雇用後は企業の一人当たり賃金が低下した一方、売上や労働生産性には有意な差がありませんでした。製造業の事業所を対象とした分析で、因果関係の判断にはさらなる検証が必要です。

労働政策の研究者からは、特定技能の賃金の分布が技能実習に近いことを指摘し、制度が技能実習の慣行の延長になれば、低賃金の圧力が働く可能性があるという見方も示されています(東京大学の髙谷幸氏、『日本労働研究雑誌』2026年4月号)。ただし、この点は仮説の段階で、日本人の賃金への影響を測った結果ではありません。

このように、日本では、外国人労働者の増加が日本人の賃金や雇用に与える影響について、統計的に確かな結論はまだ得られていません。全体として有意な影響が検出されなかったとする分析がある一方、企業レベルでは雇用後に一人当たり賃金が下がったとする報告もあります。ただし、「検出されなかった」ことは、「影響がない」と証明されたことを意味しません。在留資格別の賃金データは2019年の調査から始まったばかりで、特定技能は制度の歴史も浅いため、今後の検証が必要な論点です。

つまり、外国人労働者の受け入れが日本人の賃金に与える影響は、技能レベルや業種、分析手法によって結果が分かれており、一律に「影響なし」と言い切れるものではありません。これが現時点の研究の到達点です。「タスク補完」(外国人が定型作業を担い、日本人が管理・指導業務にシフトすることで賃金が底上げされる)という考え方自体は労働経済学で議論されている概念ですが、これも常に成立するとは限りません。

実務上のコスト構造

特定技能外国人の受け入れには、日本人と同等以上の給与に加え、海外送出費用や登録支援機関への委託費(月あたり数万円程度が一般的とされます)等の付随コストが発生します。したがって「外国人材=人件費を安く抑える手段」という単純な図式は成り立ちにくいと言えます。

4. 人手不足倒産の実態

帝国データバンクの調査によると、人手不足を原因とする企業倒産(法的整理、負債1000万円以上)は増加傾向にあり、2024年度は350件に達し、2年連続で過去最多を更新しています。業種別では建設業・物流業が全体の4割強を占めます。中小企業では、現場作業員が1〜2名不足するだけで受注断念や納期遅延に至るケースが報告されており、現場の欠員が事業継続そのものに影響し得る状況です。

結論:制度的な防壁はあるが、影響の大きさは「研究中」の論点

  • 海外の事例:国内失業者との競合や不法就労が賃金下押しの一因として指摘されている(日本とは制度前提が異なる)
  • 日本の法制度:日本人と同等以上の報酬が義務付けられ、対象分野も限定されている
  • 経済学の到達点:日本人の雇用・賃金への影響について、「明確にゼロ」と断定できる段階ではなく、技能レベルや分析手法によって結果が分かれている
  • 現場の実態:人手不足倒産は過去最多水準で推移しており、現場の欠員が事業継続に直結するケースがある

制度上、日本人労働者を安く代替する仕組みにはなっていない、という点は法制度・実務コストの両面から言えます。一方で、日本人の賃金への影響が「ゼロと実証されている」と断定できる段階ではありません。研究の蓄積に応じて、見方が変わる可能性がある論点です。

あわせて読みたい記事

主な参照資料(確認時点を明記)

  • 厚生労働省委託事業報告書「外国人労働者の受入れによる労働市場への影響に関する調査研究」(平成31年3月):ロースキル層への賃金影響は正・負両方の結果、就業率への有意な影響はなしと報告
  • 橋本由紀氏(経済産業研究所)「外国人労働者政策の針路 経済成長に寄与する制度に」(日本経済新聞「経済教室」2023年11月20日):高技能/非高技能で日本人賃金への相関が分かれるとする報告(因果関係を示すものではない旨、原典に明記)
  • George J. Borjas「The Labor Demand Curve Is Downward Sloping: Reexamining the Impact of Immigration on the Labor Market」(NBER Working Paper 9755、2003年)
  • David Card「The Impact of the Mariel Boatlift on the Miami Labor Market」(Industrial and Labor Relations Review、1990年)
  • Gianmarco I.P. Ottaviano, Giovanni Peri「Rethinking the Effect of Immigration on Wages」(Journal of the European Economic Association、2012年):米国での実証結果は経済学者間でも見解が分かれる
  • 笹原彰・隋雨旻・Emily Taguchi「Immigration, imports, and (im)mutable Japanese labor markets」(慶應義塾大学産業研究所 KEOディスカッションペーパー No.174、2023年2月)
  • 橋本由紀「特定技能外国人雇用の客観的効果と主観的評価」(経済産業研究所 ディスカッションペーパー26-J-035のノンテクニカルサマリー、2026年)
  • 髙谷幸「移民労働者の増加は日本の労働社会にどんな影響をもたらすのか」(『日本労働研究雑誌』No.789、2026年4月)
  • 帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査」:2024年度350件(2013年度の調査開始以降、2年連続で過去最多)
  • 出入国管理法基準省令:特定技能外国人の報酬に関する「日本人と同等以上」の要件

本記事は2026年8月時点で確認できた公表資料に基づき作成・修正しています。有効求人倍率の具体的な倍率、初期費用・支援委託費の相場等は変動があるため、最新の一次資料でのご確認を推奨します。

更新履歴
2026年10月24日:冒頭に執筆の理由を追記し、表現と末尾の注記を整理し、日本の研究を追記しました。

記事の著者:行政書士 多田曜識
多田曜識行政書士事務所(東京都足立区) https://tadaakinori.com/

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